コラム
2025年03月28日

本職がお伝えするカラーベスト屋根のカバー工法についての危惧

古くなった「カラーベスト葺」屋根の改修方法として板金製の段葺材による「カバー工法」と呼ばれる工法がよく利用されます。

古いタイプのカラーベスト材は少量のアスベストを含んでいるということもあり、撤去や処分に金額的、手続き的に多くの問題が発生します。その為、古いカラーベスト材を撤去せず上から軽量の板金材を被せる「カバー工法」と呼ばれる工法が主流になっています。

しかし最近これに関する問題点を見聞きすることが多くなってきています。

そこで今回はこの段葺材によるカバー工法について携わる者として最近危惧していることについてお話したいと思います。

カラーベスト葺屋根への段葺材カバー工法とは

阪神大震災前後に屋根の軽量化とほとんどが既製品の資材で賄える手軽さが好評で 大変多くの物件に採用されたカラーベスト葺屋根ですが当時はメーカーによって「コロニアル」「フルベスト」「パミール」などの商品名で数多くの種類が流通していました。

築後30年前後の古くなった建物の全面リフォーム(リノベーション)などのタイミングで作業足場を組む必要が出た際に、屋根のカラーベスト材の劣化を補う手段として既設のカラーベスト葺屋根を撤去せず、上から板金製の軽量の素材で作られた屋根材を重ね葺する工法で20年ほど前から行われるようになりました。既設材を撤去しない理由は30年ほど前のカラーベスト材には強度確保などの為 僅かではありますがアスベストが混ぜられており、これを産業廃棄物として廃棄処分する場合かなり高額の処分費が掛かったり、粉塵飛散防止のための大規模な防止策を講じる必要があるなど 費用と手間が掛かる為です。また屋根を撤去することで雨天など天候の変化にも注意が必要になります。

よく使われるのは厚みが0.35㎜~0.4㎜程度の塗装ガルバリウム鋼板を使い、商品を施工する際に嚙合わせる「篏合(かんごう)」部分を設け、葺きあがると既設のカラーベスト葺よりも少し大きめの1センチ前後の段差が付く様にデザインされた既製品を使用します。商品の裏側には発泡断熱スチロールが付けられていますので断熱効果や遮音効果、また段差を踏んでもつぶれないといった作業性にも一役買っています。取付は通常、4~5センチ程度のビスを使い既設カラーベスト材の上から直接留めます。

段葺カバー工法の注意点

まず屋根材が変わることで雨の流れ方にも変化が出ます。カラーベスト材の上を流れる雨はかなりゆっくりとしたスピードで雨が流れていきます。それは表面に凹凸が有り水の流れの抵抗になるからです。しかし板金材の屋根に変えると表面が平らなため抵抗が減り雨の流れが速くなります。流れが速くなるという事は雨が前に飛びやすくなり、強雨の時など雨が軒樋に入らず前に飛び出てしまうことも有ります。ですので意外かもしれませんが屋根を板金材に変えた場合は軒樋の位置変更、場合によっては形状も変更が必要になります。特に隣家が近くに接している場合、これが原因で雨が降ると隣家に迷惑をかける場合も有りますので注意した方がいいです。多くの場合作業用足場を建物全体に設置することが多い為、足場があるうちについでに雨樋の変更も行った方が結果として後々のトラブル防止にもなります。

また多くの場合、既設カラーベスト葺屋根の屋根下地は12㎜程度のベニア板(合板)が使われていますのでそのベニア板に対し、長いビスを使い留めていきますので このベニア板の強度は重要になります。この12㎜の合板が何らかの理由で腐っていたりすると新たに被せる段葺材の取付強度は著しく落ちます。

屋根の傾き(勾配)が極端に緩い状況でカラーベスト材を葺いてあるケースがごく稀に見られますがこういうケースではこのカバー工法は使えません。1センチ前後の段葺構造の為、勾配が緩いとそもそもカラーベスト葺自体が2寸5分(角度で言うと約14°)以上の勾配でなければ重ね部分から漏水の危険性が有るので使用は認められていませんが 中には知ってか知らずか遥かに緩い勾配で使用してある物件も見られ、こういう場合は合板下地が傷んでいる可能性が高いです。またカラーベスト材の割れなどを放置したまま長い年月が経った屋根も同様に傷んでいる可能性が有ります。こういうケースでは事前に所々 ビスの試し打ちをして確認を取る必要があります。

取り扱う業者ですが板金材の材料を使いますので基本的に「板金業者」が行います(ちなみに当方は住宅に特化した板金専門業者です)。特に屋根工事に付帯して多くの箇所で板金材を使い雨が入らないように加工取付をしますので板金材の扱いに慣れた(専門的な加工施設を持った)者である必要が有ります。現場に合わせた部材なんか作らずあくまで既製品の部材だけ使うからいいんだと塗装屋さんや瓦屋さんが施工されているケースも時々見られますが 仕上がりに差がでることが多いです。段葺カバー工法に限りませんが雨の流れをよくわかっていない方が施工されたケースで 天窓など雨漏りのリスクが高い屋根にもかかわらず、本来 加工取付に手間がかかる部分でも手間をかけず、適当に取付てあとはコーキング(防水用のり)を塗って終わりという方法をとった場合、これが原因で雨漏りにつながった例も有ります。

段葺カバー工法を勧める問題

既設カラーベスト葺の屋根に段葺のカバー工法をお勧めするのは大きく分けて2つです。ひとつは既設カラーベスト材が経年で見映えが悪くなり、塗装よりも耐久性の優れた板金材でのカバーで「意匠的にカバー」するケース。もうひとつは既設カラーベスト葺屋根が何らかの原因で雨漏りをしているが前記の理由等でカラーベスト材の撤去、葺き替えは難しいので「雨漏り対処の方法としてカバー」するケースです。

「意匠的にカバー」する場合は確かにガルバリウム鋼板という金属でカラーベストを覆ってしまいますので 塗装よりも耐久性は見込めますので一つの選択肢としては選ばれるケースも多々あります。問題は二つ目の「雨漏り対処の方法としてカバー」を勧めてくる場合です。リフォーム業者さんや雨漏り専門をうたう業者さんの中にはカラーベスト葺屋根の雨漏り対処として真っ先に勧めてくる事例をよく聞きます。

ここで重要なのはその雨漏りの原因を突き詰めた結果、部分的な修理ではなく全面板金材でのカバーをする必要があると判断したのか、という事です。私が以前屋根からの雨漏りを対応させて頂いたお客様からこんな話をお聞きしたことが有ります。私の前に ある雨漏り専門をうたう業者さんに相談されたところ、屋根には直接上らずカメラ付きのドローンで屋根の状況をみて「これは屋根全体が経年で傷んでいるので 板金材でカバーをした方がいい」と勧められたそうです。そのお客様は高齢の親の家なので 雨漏りは何とかしたいが極力費用はかけられない、とのご意向でしたのでそれを踏まえて屋根に上がって確認し雨漏りの原因を推測、その部分の修理で雨漏りを直させて頂いたことが有ります。段葺材でのカバー工法は既設屋根を撤去処分しないので費用が抑えられるとはいえ、やはり100万円単位の費用が掛かることがほとんどです。受ける業者、特に営業さんは少しでも金額の張る工事を受注したいので雨漏りの原因は何であれ、屋根カバー工法の工事を勧めてくるケースが大変多いと思います。屋根の雨漏りであればあくまで雨漏りの原因を見つけ、それを解決するいくつかの方法を提案し、その一つが屋根全体のカバー工法であるのであればよいのですが 何でもかんでもカラーベスト屋根の雨漏り修理=段葺材によるカバー工法が一番という考え方は違うと思います。

 

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