本職がお伝えするお話
2023年12月18日

本職がお伝えする古くなった雨樋の割れや外れる事についてのお話

普段天気の良い日には気にならないものですが 雨が降ると気になるものの一つに「雨樋のトラブル」が有ります。この雨樋のトラブルは大きく分けて「雨樋の破損など本体の構造のトラブル」で雨が落ちてくるケースと「落ち葉や堆積物による詰まり」で雨水の流れが阻害されて雨が落ちてくるケースの2つが有ります。

今回は雨樋の工事を長年行っている者として この「雨樋の破損など本体の構造のトラブル」について実際の経験に基づきチョッとお話したいと思います。

雨樋の役割とは

通常雨樋は軒樋呼樋竪樋の大きく分けて3つの部材によって構成されています。

「軒樋」は屋根に降った雨を屋根の先端で集める役割、「竪樋」は軒樋で集めた雨を地面に向かって流す役割、「呼樋」は軒樋と竪樋を結びつける役割が有ります。屋上が人が歩けるようにテラス上になった屋根の無い形状の建物では「軒樋」「呼樋」は無く、代わりに屋上の雨水を外壁の外に出し、竪樋につなぐ役割の「飾りマス、受マス」が付きます。

どの部材も集まった雨を流す役割の為、まとまった量の雨水を扱いますのでどこかで不具合が有るとバシャバシャと落ちてきて大きな音がしたり、下に落ちた水撥ねで不快な思いをしますし建物に悪影響を及ぼします。2階建ての建物で落ちた雨水が下の屋根に直接落ち、それにより雨漏りの原因になることも有ります。

物件によっては最初から軒樋を取付けずに「軒(のき)」の出を大きくして落ちた雨水が建物に影響を及ぼさない様にする様 設計される場合も有ります。

雨樋が割れる主な原因

最近の多くの雨樋はプラスチック製(正しくは塩ビ製)の雨樋です。ほとんどの部材接続は接着剤による固定方法で 正しく接着された物であれば外れることはほぼありません。

塩ビ材は新しいうちは適度の柔軟性があるため、余程のことがないと割れるなど破損することはあまりありませんが 年数が経った商品では、衝撃や熱伸縮により部材が破損したりします。特に多いのがこの熱伸縮による軒樋部材の破損で 仮に真夏と真冬の温度差が30度の場合、10mの軒樋で約2センチ弱の伸び縮みが発生するといわれています。これを絶えず繰り返すことで「継ぎ手(ジョイント)」や「曲がり(コーナー)」と呼ばれる部材に負担がかかり、亀裂、破損が生じます。

昔からそれを軽減するために呼樋に「上合(じょうご)」と呼ばれる集水マスを使用し、その中で軒樋を切断して熱伸縮を吸収する方法が有ります。但しこの工法は集水マスが商品に設定されている軒樋に限られ、そもそも最近のデザイン重視の形状の雨樋では最初から集水マスの設定が有りません。また集水マスの中で軒樋を切断するため、左右の軒樋の高さが揃わず、支持金物の取付間隔、取付け方によっては集水マスが傾いてしまう恐れも有ります。

この熱伸縮を根本的にかなり軽減できる商品も開発されており、軒樋の素材に工夫がされたものを採用し主軸商品にしているメーカーも有ります。具体的には軒樋の芯材を金属の鋼板で作り、その両面を塩ビ材で被うことで塩ビ材のみの商品より大幅に熱伸縮量が減り、部材の破損を防いでいます。但しこの商品も初期の頃のものは芯材の鋼板にサビが発生し、内部で膨張し表面の塩ビ材が割れてしまうケースもありましたが 最近のものでは改良されているようです。

この熱伸縮は多くは軒樋で見られますが条件によっては竪樋でも発生します。3階建ての住宅で竪樋が長い場合や集合住宅などに使用される大型の竪樋では、取付状態によっては部材の破損が発生します。特に竪樋の足元が地中排水管と接着剤で直結されていて、地震の際などの建物の揺れと地面の揺れとのズレや熱伸縮を吸収できない場合に発生します。

以前は地中に埋める排水管は竪樋より1サイズ大きな径のものを使い、その中に竪樋を入れる さや管状態の工法が普通でしたので熱伸縮や地震などによる建物と地面との動きによる竪樋の破損を防いでいましたが、最近では地中排水管に接続固定してしまう工法が主になっています。

また屋外使用の塩ビ材は年数が経つことで柔軟性が失われ わずかな衝撃でも割れてしまうことが有ります。屋外に放置していたプラスチック製(塩ビ製)バケツがチョッと力を入れると簡単に割れた経験をお持ちの方も多いと思いますが正にそんな感じです。

軒樋の形状について

元々 塩ビ製雨樋の最大のメリットは接着剤工法による施工性の良さと安価ということでしたが近年、付加価値を持たせるため軒樋は形状に多様性が見られる様になりました。

一番オーソドックスのものは「半丸(はんまる)」と呼ばれる半円状の形状で、最近のサイズは105ミリ幅のものが主ですが古いものでは100ミリ幅や90ミリ幅のものも存在していました。この形状は複数ある雨樋メーカーでも生産初期から現在まで必ずラインナップされており、安価で施工性にも優れ 、ホームセンターなどでも入手しやすい商品です。同じ「105」というサイズ表記ではありますがメーカーによりわずかに寸法が異なり互換性は有りませんが、知識と経験があれば僅かな細工で他メーカーの部材を取付けることも可能です。

近年ではデザインを主にした「角形」のものが主流です。形状や大きさも時代により各メーカーにより大きく異なりますので 半丸形状の物の様にわずかな細工で他メーカーの部材を取付けることはほぼ不可能です。雨を受ける容量も半丸形状のものより大きなものが多く、またこの形状の軒樋の特徴として、特に近年のものでは軒樋の支持金物が外部からほとんど見えない「内吊り工法」を採用している商品がほとんどで、いかにも「雨樋がついています」と見えない工夫がされています。

雨樋の部材が外れる理由

前記の様に塩ビ製雨樋はほとんどの部材を接着剤による固定方法を採用しています。ですので接着不良以外で部材が外れることはほぼありません。しかし 部材によっては突起部分を相手側のへこんだ部分に食い込ませる 「ツメ」で固定をしている部材も有ります。

軒樋に付けられた呼樋の「ドレン」部分と竪樋、エルボはこの方法で固定されていますが 施工時のミスできちんとツメが相手部材に食い込んでいなかった場合、逆に無理に入れ込んでツメが割れたりしていた場合、経年によりズレが生じて外れることが有ります。

稀ではありますが軒樋や竪樋の支持金物自体が抜け落ちるケースも有ります。木造でもコンクリート造りでも雨樋の支持金物はしっかりとした「躯体」に固定する必要が有りますが、何らか理由によりきっちり固定できていなかった場合に後々抜けて それが雨樋本体の外れを引き起こします。

木造住宅では特に竪樋の支持金物は基本「建物の柱」に取付けることが必要です。通常の竪樋の支持金物は竪樋を受ける(掴む)部分に長い釘の様な部材がついた形状で この釘の部分を壁の中の柱に打ち込むように設計されています。しかし現場の状況で壁の中に柱の無い所に竪樋を設置しないといけない場合が有ります。こういう場合でもその金物を柱の無い所に使用した場合は壁の保持力が足りず経年で抜けてしまいますので、それに対応できる「ビス留め用」支持金物を使うなど細やかな対応が必要になります。

雨樋修理に関する問題点

塩ビ製雨樋が破損により部材交換の必要がある場合、古い商品で大きな壁になるのがメーカーの「生産終了」という事態です。

前期の様に半丸形状の軒樋であればメーカーによる若干のサイズ、形状違いこそありますが 基本的に容易に入手でき、またサイズ違いも「技術で」対応できる場合が多いので問題は少ないです。

角形形状の物は各メーカーが数年ごとに新製品を作りますが 市場のニーズなど販売数の変化で生産をやめてしまうケースが多くあります。その為、交換部材が入手出来ない為に破損個所以上の、もしくはかなり広範囲の雨樋の交換という選択にならざる負えないことが多くあります。また稀ではありますが形状こそ生産継続品であっても「色」が終了色というケースも有ります。

古い樋を最近の商品に取り換える場合でも建物の屋根の形状により対応に苦慮する場合が有ります。

和風の建物を想像して頂けるとわかりやすいと思いますが 以前は屋根の裏側に「垂木(たるき)」と呼ばれる木製の角材が3~40センチ間隔で取付けられていて、これに対応した軒樋の支持金物を使用して取付けていました。

しかし現在の建物の多くはこの垂木が見えない形状の屋根構造になっている建物が主になり、その代わりに幕板(まくいた)」、「鼻隠しと呼ばれる部材を取付けるようになりました。現在の軒樋の多くは幕板に取付ける前提のデザイン、取付金具となっていますので垂木形状の屋根には対応できない場合が有ります。半丸形状の軒樋は今でもこの垂木に対応できる支持金物で施工できますが 角形形状の軒樋は今では対応が出来る商品はかなり限定されてしまいます。

雨樋、特に軒樋は屋根の先端など高所に設置されている為、補修作業や取替作業はかなり危険な作業になります。屋根の傾き(勾配)にかかわらず屋根の先端での作業は足元が滑ったり、風等で少しでもバランスを崩すと墜落という重大事故につながりますので基本は避けるべき作業です。事故が起きると非常に多くの方に迷惑が掛かることを考えると作業用足場を設置すべきなのですが 少しでも費用を安くしようと屋根の上から危険な作業をされる方、依頼される方がいるのも事実です。作業用足場は立地条件、組立規模にもよりますが一般的には雨樋修理の工事費より高くなることが多くなります。

 

 

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