本職がお伝えするお話
2024年04月18日

本職がお伝えする屋根の雨漏りとコーキングとのお話

現在の住宅などの建築業界で業種にかかわらず無くては成らない物の一つに「コーキング材」があります。「シーリング材」とも呼ばれますが 粘度の高いクリーム状の液体で固まるとゴム状になる為、振動などにも強く接着力にも富んでいるので「防水用のり」として非常に多くの場面で使用されています。

残念ながら私はシーリング工事の専門ではありませんので材料の解説ではなく、これを使用した「雨漏りの修理」についてのお話です。

 

よく使われるコーキング材とは

防水用のりとして一般的なコーキング材ですが、シリコン系やウレタン系、アクリル系など特性に違いを持たせた多くの種類が有り、これを使いシーリング工事を専門に扱う業種も有るほど実は奥が深い建材なんです。

私を含め一般的によく使われるコーキング材は大きく分けて2種類です。一つは「シリコンコーキング」と呼ばれるもので金額も1本 5~600円前後と安価で 色も透明の物から茶色や黒色、白色など豊富にあり、ホームセンターでも扱っている商品で私達板金屋はもちろん、大工さんや電気屋さんなどが普通に使っている材料です。ゴム状に固まると強度も強く接着力も強い、耐水性も強い材料ですが水をはじく力が強いがゆえに後から塗装が乗らないという欠点があります。もう一つはこのシリコンコーキングの特性を変えた「変成シリコンコーキング」です。シリコンコーキングの塗装が乗らないという欠点を解消した材料で、後で塗装が必要な個所に使われていますが耐候性という点では若干落ちるようです。その他アクリル系コーキングなど多種有るようですが 一般の人が使うのは主にこの2種類がメインになります。

 

雨漏りの対処としてコーキング材を使う際の注意点

誰でも塗布するだけで穴を塞ぐことが出来るという事で、雨漏りの修理材としてこれさえ使えば簡単に雨漏りが止まると信じている方が非常に多くいらっしゃいます。雨漏り対処としてコーキング材を使用する場合、いくつか注意すべき点があります。

まず一番重要なのは雨漏りの原因が特定できているのかという事です。私が今まで対応してきた雨漏りでもその原因は実にさまざまです。単純に「穴が開いていたから」という場合も有れば「毛細管現象」で水を吸い上げていた場合、施工した方が水の流れを誤って解釈していた場合など本当に多くのケースが有ります。毛細管現象をわかりやすく説明するとバケツに水を入れ、そこに雑巾の端を水に浸しておくとやがて雑巾が水を吸い上げて、水に浸していない所まで濡れる現象です。これと同じようなことが屋根材の中で起きていることが有りますが、これらを全て上からのコーキングの塗布という簡単な一つの対処で直せることはありません。コーキングで穴を塞ぐという対処はあくまで「表面的な穴が原因」という簡単な理由のみに有効です。表からは見えない所で起きていることが原因の場合は、見えている部分に上からいくらコーキングを塗布しても無意味で、場合によっては屋根材をめくって見る等、根本的な解決が求められます。

コーキングを塗布したことで逆に雨漏りが悪化するケースが有ります。水の出口をコーキングで塞いでしまった場合に起こります。解りやすい例えで言うと、角に小さな穴を開けたビニール袋に少しづつ水を入れていきます。もちろん角から少しづつ漏れますがこの穴を塞いでしまった場合、ここからは漏れなくなりますが少しづつ入ってくる水は抜ける場所が無くなりどんどん溜まり、やがて袋の上部から溢れてきます。つまりその隙間や穴がこの雨漏りにどの様に関係しているのかを考えず、隙間、穴は全て雨漏りの原因と勘違いしている方に見られる対処法です。

また屋根材の多くは1枚で形成されたものでは無く、複数の部材を重ねたり、つなぎ合わせたりして大きな屋根をカバーしています。ですのでこの継ぎ目がなければ雨漏りしないとばかりに継ぎ目をすべてコーキングしようとされる方もいらっしゃいます。確かに理論上はベランダや屋上の防水の様に、全て継ぎ目を塞げば雨水の侵入箇所は無いはずですがそれをコーキングで出来るかと言えばそれはノーで、多くの場合上記の様に逆効果となります。完全に継ぎ目をすべてコーキング材が密着していれば良いのですが、屋根材の継ぎ目というのは単純な平面ではありません、複雑、かつ立体的です。少しでも隙間が有ればそこから侵入した雨水は今度は出口が無い為、屋根内に漏水という事にもなります。

また元々水が溜まりやすい構造になっているものをコーキングを使えば何とかなるというのも一時的な物で、根本的には溜まりやすい現状を変えない限り漏水の可能性は解消しません。

 

瓦系の屋根材の場合は部材間の重なりが数センチあります。よくある勘違いで瓦の割れた部分にコーキング材を塗布する場合、表面的に見える部分のひび割れにコーキング材を塗布しても、重なって表からは見えない数センチの部分のひびがそのままでは雨漏りは止まりません。瓦の下に板金材を敷いて漏れた水を下の瓦には排出するなどの別の工夫が必要です。

以上の様に雨漏り対処としてコーキング材を使用する場合は原因を特定したうえで、水の入り口を出来る限りピンポイントで使う事が大切で、やみくもにところ構わずゴテゴテとコーキング材を塗ることは返って逆効果になることが多いと思った方が良いです。

 

DIYでコーキング材を使う場合

一般の方でも高所の屋根はともかく、低い場所の壁や屋根材のひび割れをコーキング材を使い自分で直したいと思われる方もいらっしゃると思います。その場合の注意点を説明します。

但し慣れていない方がコーキング材を使用したものの思った効果が出ずに結局プロの方に依頼される場合、ご自分で塗られたコーキング材が返って妨げになる事もよくある話です。あくまで自己責任で、自信の無い場合は初めからプロに頼まれた方が良いと思います。

私たちが通常に使うコーキング材は、一般的には30センチ程度の筒状の容器に入ったものを専用の器具(コーキングガン)を使い絞り出して使います。例えば穴を塞ぐのであればそこに塗布することでゴム状に硬化し誰でも簡単に穴を塞げますが注意点が有ります。まず塗布する箇所が濡れていたりホコリ等が付いているとうまく接着できませんので事前に清掃、乾燥状態であることが必要で重要な事です。ある程度の粘度は有りますが大きな穴などは垂れてしまいますのでコーキングだけでの使用は出来ません、別の物である程度の穴を塞ぐ必要が有ります。ある程度見栄えが気になるところでは「マスキングテープ」を使いコーキングを塗布するところと付けたくない所を分けた方が良いです。

ここからコーキング材を塗布していくのですが、壁など後々塗装することが予想される箇所に使用する場合は「変成シリコンコーキング材」を使用してください。少し安いからと通常の「シリコンコーキング材」を使うと後々外壁塗装の際にその部分だけ塗料が乗らない、すぐに剥がれるという事になります。木材やコンクリートなどに使う場合は前段階で「プライマー」と呼ばれる接着増強剤を塗り、少し置いておくとコーキングの接着強度が増します。また部材の継ぎ目に塗布する場合は表面だけでなく、継ぎ目内部に充填する様にした方が部材の伸縮等で切れる恐れが有りませんし見た目にもきれいです。そして塗布したコーキングは必ずヘラ等で押さえながら均すことが肝心です。この為にも先程のマスキングテープを貼ることで余計な部分を汚さずに済みます。このマスキングテープはコーキング塗布後にすぐ剥がさないとコーキングが乾いてテープと分離して剥がれなくなりますので注意して下さい。特に高温の夏場はそのスピードが速いです。

シリコン系のコーキング材というのは非常に滑りやすい材料です。コーキング材が手に付いたまま他の物を触るとそれにも付着し、長時間つるつると滑りやすくなりますので注意をしてください。

 

現在のコーキング多用の現状についての懸念

現在の建物にとってコーキング材は不可欠なものです。専門職の方が使うシーリング材も耐久性などがどんどん進化し高性能化しているのですが、余りにそれに頼り切った工法が多くなっている懸念が有るのも事実です。水は高い所から低い所へ流れます。ですので雨に対して物を重ねる時は下から順に重ねていくのが理にかなった順番です。壁面を少しでも濡らさないようにするには屋根を壁より外に大きく出すなどの工夫も簡単で有効です。しかし上下関係が逆になったものでも、雨が常に流れるような状況でもコーキングで止水することを前提にしている場面が少なからず見られますが、残念ながらそれを否定してしまうと現在の建築は成り立たないのかもしれません。

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