本職がお伝えするお話
2023年11月28日

本職がガルバリウム鋼板についてお話します。

 

建物に板金の材料が多く使われていることは皆さんもご存じだと思います。

屋根はもちろん、雨樋や壁などにも使用する建物も有ります。

昔は「トタン」「ブリキ」と呼ばれていた板金材で、表面に薄い亜鉛メッキを施しただけの「亜鉛引鉄板」が主流でした。

表面の亜鉛の結晶が花柄の様に見えるのが特徴の亜鉛引鉄板ですが昔はこの亜鉛メッキ層がまだ弱く、長時間雨ざらしにすると黒く変色してきますし、サビを防ぐ意味でも表面にペンキを塗っていたのですが、経年でこのペンキがペラペラと剥離し剥がれるので見栄えも良くなく、定期的に塗り替えの必要が有った為、今でも板金材はこの「定期的な塗装」が必要なんじゃないか、と思われている方もいらっしゃるようです。

しかし40年位前に表面のメッキ層に特殊な配合の合金メッキを施した「ガルバリウム鋼板(GL鋼板)」が誕生し、現在ではそれを原板として表面に焼付け塗装を施した「塗装ガルバリウム鋼板(カラーGL鋼板)」が主流になっています。

私は長年、毎日の様に屋根の上で板金材をさわっていますので、職人が感じた「ガルバリウム鋼板」についてちょっとお話したいと思います。

なお文中に出てくる屋根、雨樋の専門用語はここで解説しています

 

ガルバリウム鋼板についてよくある誤解

最近では工務店様はもとより一般の方でもちょっとネットで建築資材について調べられた方なら「ガルバリウム鋼板」という名前を聞いたことが有る方もいらっしゃいます。

でもサビに強いというキーワードからガルバリウム鋼板について勘違いしている部分が有るように思います。

それは「ガルバリウム鋼板」はステンレス材の様に素材からして従来の板金材と違うと思っていらっしゃる方が大変多いです。

ネットで見てもガルバリウム鋼板の強靭さを書いた記事を時々見ますが結論から言うと、あくまで表面のメッキ層に亜鉛だけでなく、アルミやらシリコンやら(最近ではマグネシウムなんて物も含んだものも有るようですが)の合金メッキを使っているだけです。

芯材はあくまで「鉄板」です。決して芯材から特殊な金属板という訳ではないのでお間違えの無い様に。

ですので何かしらの原因で表面のメッキ側に傷がついて地金が露出すると、その部分にサビは発生します。

但しこの表面の厚い合金メッキ層のおかげでそのサビが、それ以上広範囲に広がって行かない(行きにくい)という事で、耐食性が確保、向上しています。

ちなみに私が塗装ガルバリウム鋼板なるものを使い始めて30年以上になりますが、初期の物でも色が褪せて白っぽくなったという以外、素材自体のダメージで葺き替えをしなくちゃいけない、というケースはほぼ経験が有りませんので耐食性に関しては問題がないレベルだと思います。

そしてこのガルバニウム鋼板に強靭な塗装を施したカラーガルバリウム鋼板が現在一般的によく使われている金属鋼板です。

 

最近のガルバリウム鋼板使用板金材の最大の利点とは

通常、多くの金属製工業製品はまずプレス成型などで形を作り、それを後から焼付塗装します。

車などが分かりやすい例で この順序だと組み上がった製品に傷が付いている可能性はかなり低くできます。

ところが私達板金屋が塗装ガルバリウム鋼板使用材で屋根を葺いたり、部材を加工したり、取付する場合はこれとは違った順序を経ます。

私たちは通常、約90センチ余りの幅で20メートルに巻かれた「コイル」という材料を使います。

それを現場の状況で1.5メートルとか3メートルという長さに切り、さらに加工する部材に必要な幅に切り、それを特殊な曲げ専用機械で好きな形状にして部材を作ります。

そして現場まで運搬し、屋根上に上げ、取付場所の状況に合わせてさらに切ったり曲げたりして取付けます。

すでに塗装された板をこれだけの工程取り回すので、当然どこかで取扱い傷がつく可能性が非常に高いです。

特に加工時の機械で曲げる工程時や運搬時に擦り傷が付きやすいですね。

また取付けた後も、例えば屋根材でしたら当然その上を土足で歩き回りますので、傷は付き易くなります。

その為、各社鋼板メーカーはそれら擦り傷に対して強い特殊な骨材を混入した「耐擦り傷性能」を強化し、かつ、光沢を抑えた艶消し調の落ち着いた色使いの塗装を施すようになりました。

特に最近使われる「塗装ガルバリウム鋼板」は塗膜や表面のサビ等は15年以上と長期の耐久性を持っていますが、私はこの耐擦り傷性能を持った塗装が出来るようになったことが一番有難いと思っています。

この強靭な塗装のおかげでメッキ層へのダメージが最小限に出来、「錆に強い」板金材になりました。

 

板金屋根材のメンテナンスは必要か

ガルバリウム鋼板で葺かれた屋根のメンテナンスはどうしたら良いかと聞かれることが有ります。

日々風雨にさらされ、直射日光を受けている材料ですので当然日々劣化していきますが、実際屋根の上で作業をしている者として言えばそんなに神経質になる必要はないと思いますよ、です。

基本的に屋外使用が前提の材料ですので定期的な手入れが必要という事は有りません。

沿岸部とか工場地帯に建っている等の特殊な場合を除いた一般住宅地域に建てられた物件という条件付きですが、施工後10年、20年、30年という年数、躯体の構造(木造、RC造など)屋根の形状にもよりますが、塗装ガルバリウム鋼板を使用している屋根材ならそれ自体、交換が必要なほど傷むことはあまりないと考えますので基本的に板金材としての質、塗装に関してはメンテナンスフリーと考えてよいと思います。

但し、今までの経験でごくまれなケースですがこんなことが有りました。

長期間水に浸かるような状況、具体的には建物間に大きな木製の梁を掛け、それをガルバリウム材で全面を包んだ物件が有り、その包んだ板金の下部からポタポタ雨漏りがするので修理を頼まれたことが有りました。

その時に漏れた雨水が板金で包んだ梁の中に溜まっていた為に、ガルバリウム材にも関わらず修理が不可能なほどサビていた事が1件だけ有りました。ですので長期間水に浸かるなど特殊な状況下ではまれにサビることが有るようです。

塗装に関して言えば前記の様に特殊な耐擦り傷性能を持ち、艶消し調の焼付け塗装を施したものですので色あせなど見た目の問題を良くする目的以外では、上から新たに塗装を施すことは特に必要ではないと考えますし、むしろ安易な塗装をすると変に艶が出てテカった感じになる場合も有りますので、塗る塗料についても塗装業者さんと打ち合わせが必要です。

むしろ経年による注意点はガルバリウム鋼板本体より、それを取付けている下地材の劣化、それに伴う関連付帯部材の取付状況に注意して下さい。

木造の場合、点検項目としては屋根の端部(軒先、ケラバなど)の下地木材の劣化により 屋根材の固定強度が落ちていないか、具体的には下地材として多く使われているベニア合板は水に弱いので ここが傷むとそれを留めている釘やビスの保持力が落ちます。

部材の接続箇所などに使うコーキング(防水のり)の状況も場合によっては注意が必要です。

きちんとした板金屋さんの仕事であれば コーキングだけに頼らず、雨漏れを防ぐ二重、三重の対策を前もって施してありますが、よく見られるのがガルバリウムの部材を施工後に「上から(後から)」コーキングの塗布で済ませて有る場合は、コーキングの切れが即 雨漏りにつながる場合が有ります。

コーキングは塗るときは粘度の高い液体ですが 固まるとゴム状の弾力のある固体になる「接着のり」です。誰でも容易に扱え、かつゴム状に固まることである程度成型出来るため、現在は現場において必須の建材ですが弱点として紫外線などの要因、経年により劣化や切れなどが発生します。

余談ですが容易に防水加工が出来るため、これに頼り切った作業をされる方が非常に増え「水は上から下に流れるので 材料は下から順番に組立施工する」という理にかなった施工をしなくてもコーキングで固めれば大丈夫、といった考えを持つ方が増えてしまったのも事実です。

 

リフォーム材としてのガルバリウム鋼板

屋根に使用される材料は金属板などを使用した「板金葺屋根」や昔からある「瓦葺屋根」、30年ほど前に爆発的に増えたカラーベストなどの「彩色平板スレート葺屋根」などが有りますが、最近では経年後のリフォーム材として屋根に使われることも多くなっています。特に初期の頃のカラーベスト材には少量ですがアスベストが含まれている為、廃棄には多額の費用や作業の制約が有ります。

この経年で劣化したカラーベスト材のリフォーム方法として、既設材を残したまま既設の屋根材の上からカバーしても重量増が抑えられ かつ、表面の耐久性も確保できるのでこの塗装ガルバリウム鋼板によるカバー工法が主流になっています。

また雨樋にも使用する場合も有ります。

雨樋は塩化ビニル樹脂製が一般的ですが、金属製ならではのデザインの自由度、質感を求める方によく選ばれています。

もちろん金属加工メーカーが作る既製品も有りますし、場合によっては私がオリジナルで制作することも有ります。

 

 

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