本職がお伝えするお話
2023年10月18日

本職がお伝えする 強風で板金材が剥がれるという事のお話

台風など強風時に建物に及ぼす影響で真っ先に考えられるのが、屋根など高所にあるものへの影響です。

屋根への影響(被害)とすれば大きく分けて2つ有ります。

① 屋根材本体が剥がれる、飛散するなど。

② 屋根材に付属する「棟包み」などの板金材付帯物が剥がれる、飛散する。

どちらの場合も根本原因は屋根材の固定方法など取付状態に問題が有った場合や、取付けている下地材の劣化などで起きます。

今回はいつも屋根に上っている板金屋が この事に付いて実際の経験に基づいて考えてみたいと思います。

なお文中に出てくる屋根、雨樋の専門用語はここで解説しています

 

板金材の特性

板金材は屋根材としてとても軽量で かつ、耐久性のある材料です。

また、形状を自由に変えられるので複雑な屋根形状にも対応できる為、現在多くの建物に使われています。

昔は「トタン板」や「ブリキ」と呼ばれ、鉄板に亜鉛メッキを施しただけの物が多く使われていた関係でサビの発生も多く、そのサビ対策として表面にペンキを塗る必要が有りました。

そのペンキが数年後にペラペラと剥がれてくる為、どうしても安っぽい材料のイメージが有りました。

しかし最近では「ガルバリウム」と呼ばれる特殊なメッキ層を持ち、表面の塗装も15年以上の保証が付き、剥がれることの無いかなり特殊な艶消し塗料を焼付塗装してある「塗装ガルバリウム鋼板」が主流になり、以前の様な安っぽさは有りません。

むしろ鉄板の利点である 軽量で形状を自由に変えられる特性から 現在では多くの住宅に使われています。

 

なぜ屋根材が剥がれたり部材が飛んだりするのか

基本的に今の造りの建物と 数十年前の建物では、すべての固定方法が違っています。

特に木造住宅の場合は以前は「釘」で留めることが多かった、に対し現在では「ビス(ねじ)」で留める事がほとんどです。

例えば大工さんが家を建てる時も、昔は金づちで釘を打つトントンという音で表現されていたように、「釘」で物を留める事は普通でした。

私達板金屋も昔は雨樋の支持金物や板金の各部材を留めるのも「釘」が主でした。

しかし木材に留めた釘は経年により抜けてきますし、木材自体の保持力も弱くなります。

その為 抜けにくく加工された「スクリング釘(スクリュー釘)」という釘を使うようになりましたが、ビスで留めたものと比べるとやはり差ははっきりしています。

この「釘文化」の名残とでも言いましょうか、釘の抜けが昨今の強風による材料の剥がれ、飛散につながっていると思います。

最近では基本的に物の固定は「ビス」の時代ですので、釘の弱点である「経年による抜け」は発生しずらくなっています。

 

屋根材の種類による留め方の違いと風による被害の違い

板金屋根の場合は部分的にではなく、かなり広範囲に固まりとなって剥がれます。

理由として板金材使用の屋根葺工法の多くは材料同士を「ハゼ」と呼ばれる工法を使い、お互いに連結する様に葺くからです。

その為、何らかの理由で風に対し弱くなった部分に風が侵入し一部に剥がれが発生すると、連結されているがゆえに広範囲に剥がれてしまいます。

丁度 シートが風に煽られる様を想像して頂けると分かりやすいです。

また屋根材に直接釘やビスを留めるのでは無く、「吊子(つりこ)」と呼ばれる補助部材を使って留める工法が多かったという事も有ります。

最近では吊子を使わず、屋根材を直接屋根下地にビス留め施工する工法が主流になっています。

 

地震に強い軽量な屋根材という事で阪神淡路大震災以降、かなり多くの物件が採用した「カラーベスト」という一般名で知られている彩色平板スレートの場合は一枚づつ数本の釘で下地材に固定されていますので、本体が風で剥がれる、という事はあまり有りません。

それでも何か他の箇所からの飛散物が当たり、衝撃でそこが割れたことによりその周囲の材料まで剥がれた というケースは有るようです。

カラーベスト葺屋根で一番多い強風被害といえば「棟包み」の飛散です。

板金材を留めていた釘の抜けから棟包みが浮いた状態になり風で飛散、又は経年等の理由で中に仕込んだ木材の劣化で下地木材ごと外れてしまう事も有ります。

カラーベスト葺は簡単、安価に出来る様、基本的に全ての部材を既製品の取付でおこなう為、汎用品である既製品の角度や寸法が現場に合っていない物を取付けるケースも有り、それが棟包みが浮いた状態になる一つの理由にもなっています。

日本瓦の場合は以前は1枚づつ釘などで固定をしていませんでした。

軒先やケラバなど端部材のみ釘と針金で下地材に固定し、後の真ん中部分は「桟(さん)」と呼ばれる木材に引っ掛ける「桟掛け」が多く使われいましたが、中には桟を使わず、敷いた粘土の上に瓦を並べる「土葺(つちぶき)」という葺き方をしているものも多くありました。

その「土葺」のタイプの瓦葺工法の物はそもそもの保持力が弱く、また経年で粘土の粘りが無くなり、地震などで瓦がずれて落下したり、風による飛散被害が多く出ていたようです。

反面、これらの固定箇所の少ない葺き方をしている瓦は簡単に割れた瓦の差し替えが出来ますが、現在では多くをビスなどで固定しているがゆえに 割れた部材の取替えにも苦慮する状況にもなっています。

 

強風で物が飛ぶ力は2種類あります。

「正圧」つまり押されて飛ぶ場合と「負圧」つまり吸われて飛ぶ場合です。

正圧の場合は「押す力」が働きますので、軒先など先端部に有るものに対し、風の圧が物を下から上に持ち上げるようにめくり上げます。

軒先側で多いのが屋根下地材が合板(ベニア板)を使用している場合、漏水や経年でベニア板の保持力が落ちている場合や構造上の理由で留める為の釘やビスの数少ない場合、ケラバ側では屋根のはね出しが多い、風をはらみやすい形状の部材が付いている、などの場合は風に対して弱くなっている部分といえます。

逆に負圧の場合は「吸う力」が働きますので、棟など屋根の高いところで起きます。

この場合の特徴は 屋根の頂上の「棟(むね)」を挟んで風下側の物が吸上げられます。

一般の方にこの「負圧で吸われる」というのはなかなかイメージしにくいと思いますが、実際屋根の上では強風時に棟をまたいでこちら側と あちら側とで風の強さの違いを感じることは多々あります。

 

その他 風による屋根以外の板金材の被害

屋根以外では窓の上につける「庇」、塀の上にかぶせる「笠木包み」というものも有ります。

これも中の木部が劣化などで保持力が無くなってくると、かぶせている板金部材の飛散につながります。

これらの木材が劣化する主な要因はどこからかの雨水が漏れにより、木材が劣化した(腐った)と考えられます。

 

事前に出来る予防法

日々太陽の日に照らされ、風雨にさらされている屋根ですので、築後10年、15年、20年などの節目の時に点検を受け、風雨に弱くなっている点はないか点検を受けるのが一番だと思います。

軒先やケラバ、棟包みといった場所が一番風の影響を受ける場所ですので 重点的にチェックしてもらいましょう。

棟包みなど付帯部材の浮きといった軽微な場合は釘やビスの打増しも有効でしょうし、場合によっては中の木材の取替もしておいた方がより長期間の防御策になります。

注意しないといけないのは 一般の方が見えない高所という場所であるがゆえに、ことさら不安をあおる「悪徳商法」や「詐欺商法」の業者の存在です。

点検に来た業者さんの態度、言葉使いも重要な判断基準になりますし、屋根に問題個所が有った場合でも 葺き替えだけを進めてくる業者も要注意です。

もし本当に葺き替えが必要なほど重症の場合でも、きちんとした業者なら写真などで報告書を作り問題個所の説明、対処法もいくつかの選択肢を持って説明してくれるはずです。

少しでも不安に感じた場合は他の業者さんの意見(セカンドオピニオン)も聞いた方が良い場合も有りますが、あまり多くの業者を選ぶのも情報が混乱してしまいますので2社、多くても3社までにした方が良いと思います。

 

 

 

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