本職がお伝えする 銅板使用物件の現在、今後のメンテナンスなどのお話
皆さんの中には住宅に建材として「銅」が使われていることをご存じない方もいらっしゃると思います。
今回は少し「銅板」についてお話したいと思います。
しかもありきたりの性能をまとめた記事ではなく、皆さんより少しだけ多く銅板をさわっている鈑金屋がチョッと考えてみたお話です。
何かの成分として含有している、というのならともかく 現在主流のハウスメーカーなどの建てる住宅で「銅」を建材として使用することはまず無いと思いますし、今後も新築物件で「銅」を使った屋根やら樋は余程こだわりのある物件にしか採用されないでしょう。
ですので今お住まいの住居が和風テイストのこだわりの有る建物で、又は洋風でも銅の変色を楽しむために、一部銅製品を使われているケースも有るでしょう、そういう方に今現在、又は今後の維持、修理やメンテナスをお考えの方に参考にして頂ければと思います。
なお文中に出てくる屋根、雨樋の専門用語はここで解説しています。
そもそもなんで貴金属である銅を使っているのか。
簡単に言えば適度に柔らかいので曲げたり叩いて形を変える等、加工しやすく かつ、腐食に強い金属だからです。
銅板を叩いて円形にしたり、ハンダ付けと呼ばれる方法を使い複数の部材をつなぎ合わせたり出来るのもその加工性の良さが理由です。
また銅は表面の酸化が進むことで表面の色合いが赤~茶褐色、やがて緑青(ろくしょう)へと徐々に変化していく過程が有り この色合いは自然に形成されるもので人工色では作れません。
今、通常使う金属板は「塗装ガルバリウム鋼板」と呼ばれるものが主流ですがあくまで「塗装品」ですので、色合いは日々劣化していきますし 雨樋ではプラスチック(正しくは塩化ビニル樹脂)が主流でこれも日々色合い、製品強度は劣化していきます。
よく銅の樋が傷んだので塩ビ製の雨樋に変えたらなんとも安っぽくなってしまった、という話を聞きます。
この他の材料では出せない、自然が作る「趣(おもむき)」が銅の魅力です。
ではなんで銅の屋根や樋に穴が開くのか
銅板自体は腐食に強い金属で鉄の様に酸化してサビてボロボロに崩れたりはしません。
例えば30センチ角の銅板を一枚 10年間雨ざらしにしていても穴なんて開きません。
ではなぜ建材として使う銅板に穴が開くかと言えば 、諸説あるのですが一番の原因は大気中の「酸」、特に昨今急激に高濃度になり悪化している「酸性雨」が絡むからです。
それともう一つ重要なのは銅板の「厚み」です。
雨樋にしても屋根にしても銅板に穴が開くのは常にピンポイントの場所です。
よく言われるのは瓦葺屋根の軒先部分(先端部分)に一文字葺(いちもんじぶき)と呼ばれる葺き方をした銅板です。
瓦というのはご存じの様に 表面が少し凹型に湾曲していますよね。
それによって雨水をまとめて流しているんですが、そのまとまった雨水と常に接している部分に穴が開きます。
雨樋も同じでまとめられた雨水が常に落ちる「点」に穴が開きます。
初期段階では米粒より小さいゴマ位の大きさの穴から始まって 徐々に大きく広がってきます。
屋根全体、樋全体が酸で溶ける訳ではありません。
厚みに関して言えば現在、私が屋根や雨樋に使う銅板の厚みは通常0.4ミリです。
場合によっては0.5ミリを使うことも有りますが 厚くなることで細かな細工がしにくくなります。
屋根に使う場合、銅板としての材料の関係、又は伸縮性という意味から細かく切ったものをつなぎ合わせて使います。
「一文字葺」がその代表的な例ですが、そのつなぎ目(ハゼといいます)が材料の厚みが0.1ミリ違うだけでかなり分厚くなり、見た目にもボテッとした感じになってきます。
また銅製品は高価ですので厚みのわずかな違いが工事金額に大きく影響します。
昔は「銅板は一生もの」という認識が有り、銅は強いので少し薄くても問題ない、薄い方が仕上がった感じが綺麗だ、 材料代を安くしたい、という考えが有ったようです。
昔と今とでは厚みの基準が違いますが(昔は厚み表示ではなくオンスという重さ表示)今でいう0.3~0.35ミリ前後の薄い銅板がよく使われていたのも穴あき問題の一因だと思います。
銅の色は変えられるのか
通常、銅製品はピカピカに磨かれて光った状態で納入されます。
その為何らかの理由で新しい銅板を使い、部分的に古い屋根や雨樋を修理した時に必ず起こるのが「色の違い」です。
修理を必要とする箇所はおそらく数十年経って褐色~緑青色に変化しているはずです。
そこへ新しいピカピカした銅板を持って行くとどうしても違和感を感じます。
色が変わるのは表面酸化で徐々に色の変化をしていくからですが、残念ながらこの自然に作られる色合いは人工的には作れません、全ては「自然が時間をかけて作るもの」です。
人工的に作った緑青色を付けた「緑青銅板(ろくしょうどうばん)」、同じく人工的に黒く染めた「硫化銅板(りゅうかどうばん)」というものが有りますが「人工的に」作った色合いですから 残念ながら自然に出来た物とは大きく違います。
余談ですが昔、食塩水をかけるとよい、とか醤油を塗るとすぐ色が変わるなどという話も聞いたことが有りますが あまり信用しない方が良いかと。
よく「何年すれば同じ色になりますか」という質問を受けますが、使用箇所にもよりますが一般的には10年以上経てば違和感はなくなります。但し古い銅板と新しい銅板の間の年数の差の分だけ色は絶えず違います。
その為部分的な修理を行う場合はある程度、「面」など範囲を広げて交換修理をした方が後々の違和感は軽減できます。
その際、前記の緑青銅板や硫化銅板を使うのも、初めのピカピカが嫌だという方は一つの選択肢といえるかもしれませんが かなり高価になります。
今ある雨樋や屋根を長持ちさせることは出来る?
屋根や雨樋に使われた銅板を長持ちさせるために日頃のメンテナンスは必要かといえば 答えはNoです。
銅板はそのままで十分な対候性をもった金属ですので 特別何かをする必要は有りません。
但し主だったメンテナンスは不要ですが 使用場所によっては「穴あき」「切れ」は発生します。
雨樋、特に軒樋の穴あきの場合は穴の大きさにもよりますが 穴の開いた部分に小さく切った銅の板をのりで貼り付ける、という方法が一番簡単です。
これなら外側の古い色合いを残したまま穴を埋めることが出来ます。
特に銅の樋の場合、「呼樋アンコー」と呼ばれる部材を使っていることも多く、この底部に穴あきが発生していることが多いので この方法で対応することも出来ます。
但し小さな銅板をたくさん内部に貼り付けますので落ち葉やゴミなどが引っ掛かりやすくなりますので注意が必要です。
その為、落ち葉の多い場所では特殊な例として、古い軒樋とほぼ同サイズの軒樋を作り、内部に仕込むという方法をとったことも有ります。
屋根、特に多い一文字葺などの傷みには大きく分けて2つ有ります。
一つは先程説明した瓦下の穴あきです。
これの簡単な対処法は瓦の下に少し厚めの銅板を差し込み、穴が開いている部分(列)をカバーしてしまう方法です。
軒樋の穴あきの対処法の様に細かく切った銅板を貼るのではなく、瓦の長さ分 貼る方が見栄えもよいです。
もう一つの多いトラブルは「切れ」です。
銅は熱により伸縮が多い金属ですので、伸縮を繰り返すと金属疲労を起こし切れてしまいます。
一文字葺と呼ばれる細かく切った銅板をつなぎ合わせて張る工法の場合、一番重要なのはその伸縮を見越して、対応出来る固定方法をとっていたかにより変わってきます。
具体的には「吊子(つりこ)」と呼ばれる部材を用いて屋根の下地材に固定するのですが 、年代的に考えて「釘」で留めていることがほとんどです。
この吊子の取付間隔、使用する釘、下地材の厚み、銅板の厚み等により熱伸縮による「切れ」の度合いが変わってきます。
切れが激しい場合は根本原因として前記の問題を抱えていますので、簡単に「コーキング(防水のり)」の塗布だけで直せることではありません、あくまで一時しのぎです。
ちゃんとした専門家に相談しよう
ご自宅に銅板を使用した屋根、雨樋が有る場合、築後数十年経っている場合は一度専門家の意見を聞いてみるのが一番良いと思います。
本当の「専門家」であれば多くの経験から今起きている状況、今後起きるであろう問題点、その対処法の提案を的確にお伝えできると思います。
銅板の使われた建物には他の材料では出せない趣(おもむき)を持っていますので、当店では長くそれを維持して貰えるようお手伝いしていきたいと思います。